芥川賞作家が記したベトナム戦争の記録。
豊富な語彙で綴られるベトナムの記憶は、衝撃的だった。
自分の知らない戦争の中に生きる人が、何を考え、どう生きていたのかが気になる。
「数字にすぎなくなった『死』で。」
という言葉が非常に印象的であった。
メディアで数えられる死は数字でしか無く、リアリティはない。
そして、現地に生きる人間にとっての死も、麻痺した感覚の中では数字でしかない。
相反する世界に生きる人間が同じ感覚を持つというのは、何という皮肉だろうか。
「主観でしか語れないけど」
某錬金術の漫画で戦争のシーンを語るときに使われていた言葉である。
本書を読みながら、幾度となくその言葉が浮かんだ。
しかし例え主観だとしても、1つの事実であり、
そこに生きた人間にとっては真実の記録なのだとは思う。
何が正しくて、何が間違っているというわけではなく。